忘れたとき。忘れないように。

写欲はあるけどレンズを向けたい被写体がない。
そんなとき、いつも手にする写真集がある。

 

その本は、部屋や庭先など、日常の何気ない光景が収まっているに過ぎない。アートにありがちな問題提起系の内容ではないし、コンセプトがあるわけでもない。だけど、それが気楽で良い。作り込みのないリアルと光が心地良い。他人の日常なのに愛おしくさえなる。

何より、見るたびに自分をリセットできる。心の垢が落ちて自然と被写体が見えてくる。撮りたいものはリアルな日々の営みだと再確認できる。つまり、「自分(作者)」不在のものには興味がないのだ、と気付かされる。

キリンのように熟しすぎたバナナ、そして豆乳。旦那さんがいつも食べるもの。私はそれほど食べないもの。美しくはないけど愛おしい日々がそこにある。

そのことを忘れたくないから写真に残す。
そして、またいつか、そのことを忘れたときに写真集を開く。