春の花が咲き乱れる初夏の公園に、黄色の風船が現れた。
あまりに突然に。そしてドラマチックに。
持ち主のいない黄色の風船がそこにあるというだけで、日常の景色が非日常的に感じられた。まるで異空間、または時空の歪みを見てしまったような。
そう思った瞬間、私の足は風船を追いかけていた。
…と、ここで少し話は変わり。
ここ最近、写欲が薄れていた。
コロナ禍で時間が増えたことにより趣味が広がり、やりたいことが増えたけど、やりたいことは写真として残したいことではない、そうした理由が重なり、個人的作品として日常にレンズを向ける回数が減っていた。
そんな日々が続いていたが、昨日、仕事としてではなく(いや、正確には仕事だけれど)、久しぶりにカメラを持って歩いた。いつもの場所だからそれほど写欲も湧かないだろうと思っていたが、そうでもなかった。自分でも意外だった。
このときふと、森山大道氏のことが脳裏をよぎった。森山大道氏のドキュメンタリー映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』のオフィシャルTwitterアカウント(@daido_doc)での呟きを思い出したのだ。
このアカウントでは、スタッフさんが森山大道氏に密着しながら感じたことを呟かれているので、リアルを垣間見れて面白い。そこで強く感じたのは、森山さんは思っていた以上にとにかく歩き、とにかく撮る、同じ場所でも何度でも、ということだった。
日本を代表する写真家。それでも慢心することなく、飽きることなく、歩いて歩いて撮って回る。だからこそ、あの力強い写真が生まれるのだと。分かっているつもりだったけど、ね。
今思えば、あの黄色い風船はどこかに忘れてきた初心で、時空の歪みによって現れたに違いない。